”声の音” のコントロール
2023.07.04
声を出すのに必要不可欠な"部位”は・・・と考えてみたとき、皆さんはどの部位が一番最初に浮かびますでしょうか?
声帯?
共鳴空間?
それともそれとも・・
声の三要素
まずは、声を声として成り立たせている三つの要素について、お話したいと思います。
なんといっても花形は「声帯」です。声帯については前回お話ししましたので参考にしていただければと思いますが、声帯は "音の素" が生まれる場所です。
この声帯を振動させるもの、と言えば、「呼吸(呼気)」ですね。謂わば、声の"エネルギー源"。
そして、音の素が通る道、「声道(共鳴腔)」。ここで響きが増幅され、口や舌の形によってバリエーション豊かな音へ変化させることで声となります。
“Voicession” と銘打ち講習会を数回に分けて実施。
(こちらの写真はスタッフ研修時のもの)
- AKASAKA voice health center -
ハード面+ソフト面
上記の3つ、どれも無くしては声にはなりませんが、これらは ハード(器質的)部分。このハードを操作するという大切な役割を果たしているのは、"神経"伝達です。
例えば、声の高低や色の変化をつけようとした時、脳からの電気信号を伝えてくれる「神経」の働きがないと、三要素が故障していなくても、その操作に自由度を伴わせることはできません。そんな陰の立役者である「神経」が、”声の音“を奏でることと深い深い関係を持っていることを少しお伝えできたら、と思います。
声帯をコントロールするために使っている神経って?
声帯をコントロールする筋肉に入っている神経は、2つあります。
・上喉頭神経・・声帯を引っ張る筋肉に入っている神経。高音に行くときに働く。
・反回神経・・引っ張る以外のこと全て。声帯を閉じる、開く、厚くする、固くする等。
これらの神経は2つとも、"迷走神経" の枝です。
迷走神経とは、
自律神経系の代表的な神経です。主に内臓に枝を送っていることからも分かるように "不随意神経"。自分の意思でコントロールできない神経です。つまり、声をコントロールするには、自律神経系を整えないことには難しい仕組みになっていると考えられます。「声をコントロールし尽くすには、発声の技術の習得・練習あるのみ!」と思われがちですが、ストイックにテクニックを磨けば・・といった単純なことではなさそうです。それは例えるなら、胃や心臓をコントロール支配しようと企てるようなものかもしれません。
ホルモンのバランスや自律神経をコントロールする難しさに関して説明は不要かと思いますが、声を仕事にする方々のうち、特に微妙な操作を必要とする職種ほど、抗えない変化を受け入れ波乗りしながら仕事をする術を体得することが必須となります。
尚、「反回神経は迷走神経の枝である」という根拠のみで "自律神経の影響を受ける" と言い切ってしまうのは、医学的には短略的で少々乱暴なお話なのだそう。これについては、声帯の起源(エラ)まで遡った話へと掘り下げる必要がありますので、またの機会にお話させていただきたいと思います。
ポリヴェーガル理論、勉強中。“エラだった部分がコミュニケーションのために進化した部位(声帯など)に入っている神経・「新しい副交感神経」は、ストレスに対し反応しやすい” と言われています。
声の音を奏でるには自律神経調整が不可欠
どんなお仕事でも、どんな条件下で生活を営んでいる人にとっても、「自律神経系を整えることの大切さ」については一般的に認知されていることですが、声の音を奏でるためには、体調を整えるという意味合いだけでなく、直接的な関係性があることを、声の表現を職業としている方々や、その環境を支える方々のためにも広く知られて行ったらいいなと、その必要性の高さを痛感することがあります。
コンディショニングを考える上で、それは重要な要素となりますでしょうし、肉体を駆使して成り立たせる職業を営む者自身が、自らを理解することにも繋がることではと思います。
自律神経調整とは、交感神経(活動)と副交感神経(休息)のバランスをとるということ。人生という時間軸の中では、困難やストレスの波は天候の変化と同じく避けられないものであるならば、物事の捉え方に工夫を重ねるなどマインドを整える術を習得し続けることもまた、声の音を奏でることにおいては、とても大事なこととなります。
Body - Mind - Voice(Techniques)
この3つの車輪の足並みが揃ってはじめて、"声の音" は奏でることができる。
── これは私自身が長らく声の不調でもがいていた時にベルリンの人達が伝えてくれたこと、
そして私の拙い演奏業の中で知ったことです。
2016年コンテンポラリーダンスカンパニー・Sacha Waltz & Guestsとのリハーサルで通った
Radialsystem V. -Berlin-
https://www.radialsystem.de
「実は控えめなタイプです・・」
今回は「神経」について触れましたので、最後に一つ、こぼれ話。
声帯自体には知覚神経がありませんので、痛みを感じることはありません。
時折、「声帯が痛い」という訴えを耳にすることがありますが、これは声帯以外の咽喉頭周囲が痛い、ということを感じていらっしゃるのだと思われます。
声を大事にされている方ほど敏感になるところではありますが、声帯自体の不調は、周囲や音への影響からしか感じることはできない、実は寡黙な臓器なんです。
もしも、声帯に感覚があったら・・・
声を出す度に体内で生じる超高速の旗めきを気持ち悪く感じるのか、
はたまた心地よいマッサージのように感じるのか、
皆さんはどちらだと思いますか?
-この記事は、過去にnoteに掲載した記事です。