からだの中の管楽器
2023.06.17
歌は、「体が楽器」?
・・とは、声楽の世界にいると良く耳にする言葉ですが、さてさて、
実際のところ”響き”を成り立たせているものはどんな形をしているのでしょう?
まずは、そんなお話しから始めたいと思います。
理屈はともかく、まずは形をご覧ください。
M. Shiraishi et al. J Voice. 2021
恐竜の化石か何かに見えますが、管楽器として取り出したらこんな形。
気管から口腔・鼻腔に繋がる空間、「声道」です。複雑な形をしていますよね。
声帯振動で生まれた音が、この管楽器を通ることによって響いています。
声帯の振動音
ところで、声帯で生まれた ”音” 自体は、どんな音なのでしょう?
1秒間に何百回と振動している音を想像してみると・・
虫の羽音?
私も実際には聴いたことがありませんが、飛んでいる虫の羽から微かに聞こえる「ぶー」という振動音に似ているそうですよ。(声帯の動画は、追々upしようと思います。)
楽器として言葉を奏でられるのは人間だけ
その「ぶー」という “声の素”が、この管楽器の空間に伝わることによって”響き”が生まれます。そして、舌や口の形、つまり口腔内の形を変化させると、響きの”周波数の高まり”(フォルマント)が変化して、人はそれを主に”母音”として認識しています。非常に複雑な形をしている管楽器だからこそ、言葉を音に乗せることができるのですね。
フォルマントといえば、母音のことだけでなく、遠くに通る声、そうでない声の違いにも関係しています。
太ったらいい声が出る?
音響音声学は難しいのでさておき、「歌は、体が楽器?」の件。
生まれ持った声帯を使い、生まれながら備わっている管楽器(声道)を用い、呼吸や口腔内の操作など、随意・付随運動を伴って演奏していることからイメージすると、これは確かに「体が楽器」といえるかもしれません。
でも、「体が楽器なら、大きくすれば(太れば)響きが豊かになる?」かというと・・それはイコールではなさそうですよ。
いかに響く声を出すかというのは、管の形から生まれる”響きの成分”の話。
ホルンやトランペットの周りに脂肪を装着して鳴らしたら・・・
やったことありませんが、響きが豊かになるわけではなさそうですね。
「痩せ型だから声楽に向かないのかな?」ということでもなさそうですよ。
“声の音”を奏でる
生まれつきの骨格や声帯の違いによって異なる、世界に一つしかない楽器。その楽器と日々対峙することで ”ベストな調整法” を体得し、確率を高めることを目指して更なる微調整を加えつつ、一期一会に表出する音を愉しみに待つ。
私にとって「声楽家」とは、そんなお仕事です。
”今ある条件の中で可能な選択を重ねる” ということにおいては、どんなお仕事とも、どんな境遇の人とも同じ。“うたう”ということは何も特別なことではなくて、淡々と日々の鍛錬を呼吸とともに重ねているだけ、などと思っています。
-この記事は、過去にnoteに掲載した記事です。