声のおはなし
機能的な歌唱発声障害への対処法 ー legato ー
2024.08.01
「レガートができないことが、声の不調の元である」
という結論に、どうやら集約できてしまうかもしれません。
ひっくり返りも、ツマリも、そこまではっきりした症状ではない不調はもちろん、
そして、歌唱だけでなく、喋り声にもある程度同じことが言えそうです。
(炎症や器質的病変は別ですよ、機能的な不調の話です。)
これまではあくまで個人的な見解でしたが、
昨年からより多くの方々と向き合う機会をいただき、
皆さんのお話を伺いつつ一緒に実験を繰り返したところ、
やはり、どうやら、そのようです。
レガート歌唱・レガート喋りは、「声帯の安定」をもたらします。
これが何故なのかをAkasaka Voice Health Centerのセッションではお伝えしていますが、
こちらでも少しずつご紹介して皆様にお役立ていただきたいと思っています。
さてその前に、
「レガート」って何なんでしょう?
Wikiで調べてみると(笑)、
音と音との間を切らないように、なめらかに(演奏すること)、とありますね。
どんな楽器のレッスンでもお馴染みのこの言葉、
楽器演奏法の習得を目指す間に、一体何回この言葉を耳にすることでしょう!
それだけ大切なことで習得を目指すべきこと、と認識されており、
基礎中の基礎、土台となる奏法ですが、
では、レガートで演奏するには、具体的にどうしたら良いのでしょう?
私は、楽器のレガート奏法については知識のみで実演に必要な動作の詳細は分かりませんが、
歌や声の扱いについては、どのタイミングでどの場所をどう操作したら良いのかをお伝えすることができます。
その詳細がどういう経験から明確になっていったかというと・・
それは、オーケストラと共演するお仕事をする中でのことでした。
オーケストラと音楽作りをしているときは、いつも大きな鯨と海原を泳ぐような感覚がありました。
音の鯨は、どんな動きだって自由にできるのですが、動きのベースはレガートです。
どんな急な動きでも、体がカクカクと折れ曲がったりしません。
そんな鯨と一緒に気持ちよく泳ぐには、長い鍛錬期間が不可欠です。
レガートで歌唱したり、レガート奏法を的確に人にお伝えするというのは、
ほんとうは実践と経験が必要なのかもしれません。
さて、歌と楽器のレガートを考える時に大きな違い、障壁(?)は、「言葉」です。
Vocaliseの作品もありますが、多くは言語が音にのっていますよね。
次々に移り変わる言葉、母音と子音による口腔内の形の目まぐるしい変化、
これを丁寧にレガート操作で歌うことが、なんと、声の健康を守ることにも繋がっています。
(もう少し直接的な表現をいたしますと、適切なレガート操作を練習していただくことにより、
機能的な発声障害の方々が不調から脱出しています。)
歌と人間との長い歴史の中のトライアンドエラーによって、
”レガート唱法がいい”となっていった理由は、音楽表現的なことだけではなさそうですね。
音楽や芸術のみならず、今存在している人の営みの中に、
たくさんの人の知恵が息づいているのを感じるとき、
個の境界線は朧気になり、全体性の中に解放されるような感覚をおぼえます。