声帯は太る?

2025.02.25



前回は、声帯が痩せるかどうかのお話と溝症について触れました。
今回は、逆に太ることはあるのかしら・・・の疑問について。

まずは、食べたら声帯自体に脂肪がついた・・は、なさそうですよね。
けれど、声帯の組織が浮腫んで増量する、はあります。
そして、これは発声の質や音色に影響が及びます。

では、声帯が腫れる原因について考えてみた時、
皆さんはどんなことが思い浮かびますか?

過剰な声の使用、ウィルスや風邪症状、
アレルギーでも粘膜が炎症を起こし腫れることがありますよね。

喫煙やアルコール摂取のあとに声が変わる現象も、
声帯の浮腫の影響がありそうです。

以上は、ある程度予防できるものではありますが、
一方で、避けて通れない原因による浮腫もあります。

女性の皆さんは生理の時に声のコントロールが難しくなる・・
という経験がある方が少なくありませんよね。
月経周期、ホルモンの変化によっても声帯は影響を受けるわけですが、
こればかりは避けて通るのは難しく、付き合い方に工夫が必要です。

特に、音色を繊細に扱う方、高音を仕事道具にしている方々は、
小さな変化、多少のむくみであっても感じやすいと思います。
音の鳴りも悪くなり、なんだか体から離れず、軽く出せない感じ。

それもそのはず。
楽器に例えるなら、弦が知らぬ間に変化して太くなっているわけですから。
それでも、声をお仕事にしていると、何とか良い声で本番をこなさなくては・・と、
もがきたくなります。
特に女性はこれが毎月一定期間やってくるのでイレギュラーなことと捉えづらいですし、
稽古場ならともかく、本番にいらしたお客様にインフォメーションするわけにもいきませんし。

けれど、これも自然現象の一部。
この状況でも最小限の影響にとどめる発声方法はありますので、
それを習得するまで訓練することは必要不可欠ですが、
あとは、自分の体の中の自然の摂理に波乗りする思いで、
やり過ごすこともテクニックの一つ。お仕事の一つかもしれません。

不調和の先にある調和。
難しい状況の中から、状況に応じた調和が生まれること、
そして、それは全体性としてみた場合には、ただの変化でなく、
発展の方向に向かっていることがある。
ホルモンの変動の波を受け続ける女性の方が、
しなやかに生きる術を徐々に習得する機会に恵まれているのかもしれません。


余談ですが、
15年程前パリを訪れたとき、シャトレ劇場(Théâtre du Châtelet)で
ミュージカルの稽古・本番を2週間ほど見学する機会に恵まれたのですが、
ある日、ハイソプラノの女性が指揮者や現場の人々に、
「今日、私、生理なんで!」と大きな声で伝えているのを目の当たりにしました。
周囲の方々は特に驚く様子もなく当たり前に受け答えしているのをみて、
私は内心驚きました。
彼女は安心して生理中に応じた歌い方をすることができ、その歌唱に共演者も対応している。
その夜の観客さえ、ま、そういう日かもね、と受け入れている感じがして、
ある種の成熟した世界をみた思いがしました。
その頃の日本の現場では、まだそうしたことは一般的ではなかったように思います。
他国の全ての現場がそうであるとは思いませんが、
職業歌手として、羨ましいなぁ・・と思ったエピソードです。