機能性発声障害には改善方法があります

2024.9.28



歌い手の、器質的な原因によらない音声障害で、
内喉頭筋(場合によっては外喉頭筋も)の随意的な調節が十分に出来なくなることを、
メディアの世界では「機能性発声障害」と呼んでいるように思います。

しかしながら、「機能性発声障害」という用語には混乱があり、
もともとはこのような状態を表す言葉ではありません。
その解説は次回にさせていただくとして、
“パフォーマンス音声” の上記のような障害の呼び名を、
一旦ここでも「機能性発声障害」と言うことにして、お話を進めます。


いわゆる「機能性発声障害」のクライアントさんから
“改善スピード”について質問を受けることがあります。
個人差がありますが、いくつかのケースと傾向をお話します。

ジャンルとしては、声優業の方は改善が比較的速い傾向があります。

1回目のセッションでお伝えしたことを練習していただくことにより、
3〜4日程で大きな改善が見られたケースもあります。
この方の場合、練習環境に一工夫していただいたことも早期改善に繋がったと思われます。
10日後には子音の抜けや濁りなども修正され、
約4週後に2回目のセッションを実施、ほぼ解決にいたりました。


歌手の中では、クラシック歌手は改善の道筋が付くのが速い傾向にあります。
基礎訓練を行なっている期間が長いためと思われますが、
逆に、このことが障壁になる場合もあります。
ご想像の通り、長年の動作の習慣を変更してゆくことに時間を要するからです。

「高齢になるほど余計に・・」とご心配されるケースもよくありますので、
ご参考までに65歳の方のケースを少しご紹介させていただきます。

若い頃から結節を持ちながらも、長年、歌手活動と音楽大学等でご指導されていたAさん。
院長による手術を受けられ、器質的には改善したものの、
新しく形成された声帯での発声調整がうまくいかず、
喋り声においてもお困りの症状が出ていました。

喋り声の改善が少し見られたところから歌声の調整を開始され、
約1年半後、ご本人の体感としては、手術前より自由に歌える状態にまでに至りました。
具体的には、高音が出やすくなった、声の揺れがとれた、嗄れなくなった(持久力向上)、
苦手母音が歌いやすくなった等。
結節と長年お付き合いされていらっしたので、夢のよう・・と喜びを表現してくださいます。
長い人生の中で、どれだけ「声」に向かいあってこられたか、
その道程は想像し尽くせるようなものではないはずで、
歌唱動作の自由度を全身で感じられているお姿を拝見しては、深い思いから言葉が見つかりません。

現在のところ、60歳以上のクライアントさんは数名ですが、
これまでの方々は皆さん、確実に改善していかれました。
そして、そのスピードに若い方と差があるかというと、ありません。
年齢によらず、練習の仕方、頻度など、取り組み方によるところに差異が出ます。


クラシックの次に速いのは、ミュージカル業界の方です。
それ以外はジャンルによる違いは顕著ではなく、
前述の通り個人によるところが大きい印象ですが、
基礎訓練を積まれた期間の有る無しの差はあるように思います。

速い方では、2、3回のセッションで「なるほど!」となり、
ご自身のスタイルとの融合を図り復活、となる方もいらっしゃいます。
また、不調をきっかけに基礎訓練の必要性を感じ、症状の改善が見られた後も、
土台づくりを目標に定期的にセッションに来られる方々もいらっしゃいます。


「やめるのもなぁ・・と思った時期があったけれど、続けてよかった。
きっと他の人も途中で同じようなことを思うと思うけれど、
やめないで続けたら、きっとよくなることを伝えたいです。」

1年と4ヶ月の間、Akasaka Voice Health Centerにいらしているクライアントさんが、
先日お話くださった言葉です。
10年ほど前から、ひっくり返りの症状と付き合いながら活動を続けていらっしゃいました。
その日々、その困難に際し、どれだけの葛藤と思考錯誤の繰り返しがあったことでしょう。

この方は、歌に対して常に懸命で真摯な姿が印象的です。
素直で粘り強い性分と共にトライアンドエラーを続けられたことに加え、
ご自身のウィークポイントを最初から開示してくださったことも、
長年の症状・発声の習慣から抜け出すことに繋がったのではと思います。


発声技術と体、そしてマインド。
この3つの車輪がバランスよく回り出すことをサポートすることが、
Akasaka Voice Health Centerの主軸となるお仕事ですが、
私たちも日々、クライアントさんの生きる姿にエネルギーをいただき、
心豊かな時間を過ごさせていただいています。

お伝えしたいことはたくさんありますが、
今一番お伝えしたいことはタイトルの通り。

いわゆる機能性発声障害には改善方法があります、ということです。