「機能性発声障害」という疾患名について

2024.10.05



現在用いられている「音声障害診療ガイドライン」の音声障害分類表では、
いわゆる「機能性発声障害」は、疾患概念が明確な音声障害を定義した後に残る
「その他の音声障害(機能性発声障害を含む)」となっています。

この、「その他の音声障害」の中には、
・筋緊張性発声障害(過緊張と低緊張)
・変声障害
・仮声帯発声
・奇異性声帯運動
・その他
があり、パフォーマンス音声の機能性発声障害は、この「その他」に含まれると考えられます。

つまり、「その他」の中の「その他」、明確な分類に至っていない、未解明の障害、ということになります。

「機能性発声障害」の中心をなす喋り声の「筋緊張性発声障害」は、力みすぎたり緩みすぎたりの、誤った発声が癖づいて固定化してしまったもの。それに対して、歌唱時の症状は、今まで全く生じていなかった発声が出現してしまうものです。この点からも、歌唱時の「機能性発声障害」と呼ばれているものが、通常の「機能性発声障害」とはかなり違うものだと言えそうです。

「機能性発声障害」は元々大雑把に、器質的な疾患以外のものを全てひっくるめた概念に過ぎませんでした。
そこから、疾患概念や原因部位が確立したものが独立していき、残ったものが「機能性発声障害」とされているのです。以前は、痙攣性発声障害も、心因性発声障害も、機能性発声障害に含まれていた、という歴史があります。これらは、原因がメンタルや脳にあることが明確になり、機能性発声障害から外れていきました。


喋り声ではなく、歌声の症状に対して10年以上前に「機能性発声障害」という用語を最初に用いたのは、実は声のクリニック赤坂の院長、駒澤大吾医師です。学会発表などでは「機能性発声障害」とはしていなかったのですが、活動休止する患者さんがマスコミに公表する疾患名として、わかりやすくするために用いたそうです。
でも、現在に至っては、そのことを医師は「反省している」のだそう。

名付けた理由は、上記のことからご理解いただけるものと思いますが、
その後の臨床経験から、現在では、その疾患概念や原因部位が明解になりつつあるそうです。そして、同時に治療方法も合わせて見出され、多くのパフォーマーの声の症状を軽快方向に導いています。

医療の進歩は、医師の日々の弛みない研鑽があってこそ。
診療に勉強にと休みなく邁進されるドクター達を目の当たりにすると、
脈々とここまで受け継がれてきたもの、受け継いできた方々の存在、思い、
その尊さに、心洗われます。



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